食事の違い


 食べ物は、気持ちがどうであれ体が正直に反応してしまいます。スパイス盛りだくさんの食事に慣れてない胃袋は、そんな食事が続くと疲れてしまい胃炎を起こしてしまうことさえあります。ですから、食べ物に関しては無理をしない方がいいのですが、夫婦で違う食事をするというのも味気ないものですから難しいのです。

 国際結婚の夫婦を観察してみますと、よくあるのが夕食を夫の好きな食事に合わせて、ランチは自分の好きな食事をする、というケースです。このパターンは、どちらかといえば夫が中心にあって、妻は一歩下がって、という夫婦にみられます。日本の若い家庭の多くは、国際結婚の家庭ではなくても日本食に限らず多様な食事をしているのが実情です。インド風のカレー、タイカレー、イタリアのパスタ料理、韓国のキムチ、スイスのフォンデュー、などなど。中華料理やフレンチは、結婚披露宴の料理として主流となっている位です。日本は島国であるため外国からの人間との交流は遅れていましたが、食べ物に関しては世界でも類をみない程、一般家庭の食卓のレベルで国際色豊かです。そういった意味で、日本を出て海外へ移住をしても、食事の面ではそれ程困らないのではないかと思います。けれども不思議なもので、海外に住むと日本にいた頃より日本食が好きになるものです。私自身も、日本に住んでいた頃には漬物などあれば食べる程度だったのですが、シンガポールに住んでからは、味噌汁と漬物が必需品のようになってしまいました。自覚していないホームシックのようなものを食べ物で癒そうとしていたのかも知れません。

 理想的なのは、二人の好きな食事を交互にするようにして、お互いの国の食事に慣れてゆくことです。時には、自分が食べれないものを相手が食卓に載せるかもしれません。そんな時は、無理して食べることはありませんが、否定的な発言をしないようにしましょう。相手にとっては生まれた時から食べている懐かしい味なのかも知れません。そういう特別な思い入れのある食べ物に対して嫌悪感を示されると、相手はまるで自分の文化全体を見下されたような気になってしまう時だってあります。また、相手が嫌いな食べ物を食卓に載せづらくなっている人もいるでしょう。私もそうでした。私の場合は甘く煮た黒豆なのですが、イギリス人の夫が一度食べて、「デザートじゃないのに、どうしてこんなに甘くするの」と気持ち悪がりました。それ以来、スーパーで見かけても買う気がしなくなってしまったのです。けれども夫と夫婦喧嘩をした後などに買い物に行くと、煮豆も含めて本当に自分が好きだった食べ物だけを買い、夫の好きな食べ物など一つも買いません。そんな意地悪をして、すっきりした気分になったりするのです。今では食べ物もストレスになっていたんだ、ということに気づいたので、夫と私の両方に平等に配慮した食事にしようと心がけています。

 もちろん、食べ物の違いというものが、大変深刻な場合もあります。どちらか一方だけが菜食主義者だったり、イスラム教徒のように豚肉が食べれなかったりする場合です。両者とも同じ食卓で食べなければいいだけではなく、冷蔵庫の中に肉を入れておいたり、同じ鍋を使って調理するのも拒否します。このような場合は結婚を決める時に、相手の為に諦める決心をしないと結婚生活自体が難しいと思われます。食欲が満たされないと、意識しなくても不満がたまっていくからです。

 想像してみてください。故郷から送られてきた果物でもお菓子でも、友達が初めて食べて「おいしい」と言ってくれたら、まるで身内の者が褒められたようにうれしいはずです。食べ物はお互いが生きてきた文化の重要な要素なのですから。


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