日本の民法では、夫婦別姓は認められていません。結婚をする二人は、どちらかの姓を選んで統一しなければなりません。夫婦別姓は賛否両論がありますが、世界を見渡せば、夫婦の姓の事情は様々です。いずれにしても、英語で姓をファミリーネームと呼ぶように、歴史的には「家」を意味したり、ある家系を指したりするための役割だったものです。姓を名乗るだけで、その身分や階級をも意味するものも多くありました。
けれども社会は変化し、平等主義の下に財産相続は税制で管理されるようになり、特権階級のような家系は消えつつあります。また核家族化が進むなかで「家系」という観念も薄れてきました。このような社会情勢に呼応するように姓に関する法も各国で改正されてきているというのが現状です。
カナダのケベック州やフランスでは、夫婦別姓が基本で、同一の姓を名乗りたい場合は通常の名前の変更手続きが必要となります。また、2005年1月までは、子供が生まれると自動的に父親の姓が与えられていたのですが、法の改正後は両親のどちらかの姓、あるいは両親の姓の両方をハイフンでつないだもの(例えば鈴木さんと田中さんの子供なら「鈴木-田中」という姓になる)のいずれかを選んで子供の姓としてよい、となりました。
儒教の影響がまだ残る中華圏や朝鮮半島では、夫婦別姓です。これは男女平等、という観点からではなく、他家から嫁に来た女は夫の家の一員としては認めない、という差別的な理由が歴史的背景としてあるようです。ただし中国は儒教発祥の地であるにかかわらず、共産主義などの影響から儒教的な考えは薄れているため、現在では夫婦別姓はむしろ男女平等という意味において評価されているようです。
国際結婚のカップルの場合は、日本の戸籍には外国籍の相手が配偶者として入れないため、婚姻届を提出しただけなら夫婦別姓のままです。もし外国籍の相手と同じ姓に変えたい、という希望があれば、外国籍との婚姻により氏の変更届を市区町村の役所(海外在住の場合は、在外日本大使館・領事館)へ提出すれば変更できます。結婚後6ヶ月が経過してから姓を変更する場合は、居住地の家庭裁判所(海外在住の場合は、東京家庭裁判所)へ氏変更の申し立てをしなければなりません。その際に気をつけなければならない点がいくつかあります。
漢字圏の姓へ変更した場合、もしも婚姻届に「林」という姓で記入をしていたら、「リム」というカタカナ表記の姓には変更できません。カタカナ表記と漢字表記は別の姓と解釈されるからです。また、日本国内で正字として通用している漢字でだけ、婚姻届や氏の変更届に記入できるので、日本の正字に対応する漢字がない場合はカタカナ表記で届け出ることになります。また、氏変更をする際に、外国籍の相手の姓に日本の姓をつなげた姓(山田ケネディー、高橋ブッシュ、など)を届出し、その新しい姓を使用するケースもあります。
いずれにしても、国際結婚の場合には夫婦の姓に関して、選択肢が多くなる、といえるでしょう。夫婦別姓や、夫婦合併姓など、日本人同士のカップルではまだ例のない形態の姓を使って日本で生活していく上で、出会った人々に姓に関する質問をされる場面も増えてくることでしょう。これは従来の慣習に縛られることはないんだ、こんな形の夫婦の姓もあり得るんだ、という新しい見方を日本の中に広めるかもしれません。夫婦別姓の議論が行われていく中で、国際結婚の家庭は姓のあり方の実例でもあるのでしょう。